満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:10 母国恋う心は人の本能「1985年52歳」
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満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:10 母国恋う心は人の本能「1985年52歳」
85歳の母親が書く、満州引揚者の半生
・母親が出版した「縁と運」の概略
(2013/8/1 初版)
朝日新聞の読者投稿欄の「ひととき」と「声」に投稿し、掲載された70編を「縁と運」と題して出版した。
本には、林恭子の生き方や思いが人生の縮図として描かれている。
・この本の問い合わせ
絶版につき受付終了
この本に関しては、私、林 宏(息子)に問い合わせて頂きたい。
連絡先(090・6613・4068)へ。
10 母国恋う心は人の本能「1985年52歳」
今月の初め、小学校のクラス会に10人が集まりました。
私たちは、終戦の年に奉天(現瀋陽)の平安小学校を卒業した引き揚げの子。
折しも前夜に、中国残留孤児訪日で「肉親の手掛かりを求めて」が放送されました。
昭和21年六月、家族と無事に帰国できた私です。
紙一重であのようにーーとつらい思いで泣きながら終りまで見て、そのまま寝ついたせいか、うす暗い収容所、病める母親にすがる幼児、荷車に積まれた凍った遺体などの夢を読みました。
いま、残留孤児の訪日をめぐって、人はさまざまな意見を言います。
いくらなんでも子を捨てるなんて。
生きているならなんで会ってやらないのか。
育ての親の恩を思わぬかーーなど。
世の中、平穏な時は、だれでも常識的に、理論的に事を考えるもの。
しかし、極限に身を置いたとき、どのような判断をするか、それは実際に体験してみないと分からないと思います。
このまま手をひいていれば、この子の命はない、となれば、たとえ一刻でも生きのびさせる手段として、わが子を人に預けることもあるのでしょう。
また日本人の子をあずかった中国の人たちも、そのために迫害を受けて大変だったという話を、クラス会の席で聞かされました。
それだけに養父母の恩は深いのですが、母国を恋いうる思いは、人間の本能です。
この人たちは日本人だから、日本が恋しいのです。
私たちの同窓会名簿にも消息不明の人が、少なくありません。
私は、この問題については、みんなで考え、どうか1日も早く、すべての人が等しく幸せになれることを願っています。