満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:64 秋の夜の昔話 「2007年75歳」
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満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:64 秋の夜の昔話 「2007年75歳」
85歳の母親が書く、満州引揚者の半生
・母親が出版した「縁と運」の概略
(2013/8/1 初版)
朝日新聞の読者投稿欄の「ひととき」と「声」に投稿し、掲載された70編を「縁と運」と題して出版した。
本には、林恭子の生き方や思いが人生の縮図として描かれている。
・この本の問い合わせ
絶版につき受付終了
この本に関しては、私、林 宏(息子)に問い合わせて頂きたい。
連絡先(090・6613・4068)へ。
64 秋の夜の昔話 「2007年75歳」
秋雨の降る夜、夫と昔の話になった。
敗戦の翌年、14歳の私は家族と旧満州から引き揚げ、農家ばかり約100戸の村に住みついた。
週一回の配給日には、小さな袋をいくつか持って農協に行き、お米何日分、小麦粉は何日分、トウモロコシの粉に干したサツマイモと、全部足しても1か月分に満たない食糧を受け取った。
「足りない分は、食べないでいろということか」と。
そんなぐちの暮らしの我が家へ、農家の息子が「嫁入りの支度はいらん」と宣言し、身ひとつで、初潮から1年目、16歳になった私と結婚、父の家の跡継ぎになってくれた。
私の初産は、17歳だった。
「あのころ、私はやせっぽちだったのに、おっぱいはよう出たね」といえば、「ああ、やせてる方が乳はよう出るだ。豚でもそうだ」と夫。
「ほんとう?太っている豚はだめなの?」
「どうして?脂がのっちゃうから?」
「そうだぞ、人間も豚も同じだ」
「ふうん」
そういえば、赤ん坊が下痢したとき「消し炭を飲ましてやれ、豚でもすぐ治るから」と言われた。
私は、また豚と一緒にする、と怒ったっけ。
あれからもう60年。
ようやくここまでやってきたなあと、いつになくしんみりと話した。