満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:30 思わぬ再開に抱き合い喜び「1992年60歳」
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満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:30 思わぬ再開に抱き合い喜び「1992年60歳」
85歳の母親が書く、満州引揚者の半生
・母親が出版した「縁と運」の概略
(2013/8/1 初版)
朝日新聞の読者投稿欄の「ひととき」と「声」に投稿し、掲載された70編を「縁と運」と題して出版した。
本には、林恭子の生き方や思いが人生の縮図として描かれている。
・この本の問い合わせ
絶版につき受付終了
この本に関しては、私、林 宏(息子)に問い合わせて頂きたい。
連絡先(090・6613・4068)へ。
30 思わぬ再開に抱き合い喜び「1992年60歳」
昨年初めに「うん、ちょっと違うな」というお客様があった。
日経外国人の夫婦だが、言葉がさっぱりわからない。
ただ、フジモリ」と言うので、ペルーの人たちとわかった。
それ以来、よくパンを買いに来てくれるので、にわかにスペイン語の勉強が始まった。
次に会ったとき「グラシアス」と言ったら、にこっと笑った。
その嬉しそうな顔が見たくて、日常会話を「一覧表」にして、一生懸命覚えた。
ところが秋ごろ、パタッと姿を見なくなった。
郷里に3人の子供がいる、と話してくれたご主人のルイスと奥さんのラケルことが思われた。
どこで、どうしているのかと。
そうこうしてるうちに日がたち、クリスマスも過ぎたある夜、店先に二人が立ってるのを見て、思わず走り寄って抱き合った。
今まで、日本同士でさえこんなことしたことないのに、でも、なんのためらいもなかった。
私は、せっかく覚えたスペイン語も、2、3カ月のうちにすっかり忘れてしまい、ただ涙を流しただけだった。
務めの都合で、少し離れた碧南市に、にわかに引っ越しをしたのだという。
でも、どこへ行っても、まじめな人だから信頼されるだろう。
暮れの休みに、ボスが車を貸してくれたから、と会いに来てくれたのだった。