満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:15 心もうららかな春二題「1986年53歳」
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満州引揚者:林 恭子:『縁と運」:15 心もうららかな春二題「1986年53歳」
85歳の母親が書く、満州引揚者の半生
・母親が出版した「縁と運」の概略
(2013/8/1 初版)
朝日新聞の読者投稿欄の「ひととき」と「声」に投稿し、掲載された70編を「縁と運」と題して出版した。
本には、林恭子の生き方や思いが人生の縮図として描かれている。
・この本の問い合わせ
絶版につき受付終了
この本に関しては、私、林 宏(息子)に問い合わせて頂きたい。
連絡先(090・6613・4068)へ。
15 心もうららかな春二題「1986年53歳」
先日、わが店の定休日に、主人と二人で名古屋で中部包装展示会を見に行きました。
思ったより早く終わったので、足を延ばして「お菓子の城」へとなりましたが、案内が確かでなかったので、ずっと離れた名鉄の犬山駅に降りてしまい、結局はタクシーに乗りました。
「お菓子の城」は、おとぎの国へ来たようでした。
お菓子の製造工場にもなっているので、あたりは甘い、おいしそうな匂いがいっぱいです。
お二階の窓から手ふる人形の王女さまにサヨナラして、さて、帰るときになって、あまり好いお天気などで歩こうかと「楽田」という駅まで二十分と聞いたので、お城の門でもらった地図を頼りに、うららかな春の田舎道を、テクテクと行きました。
「おおっ、ジュウニヒトエの花があんなにたくさん!」
「わあ、すごい。車に乗ったら見つからなかったわね」
少し疲れて、のどもかわいたので、喫茶店で一服。
さあ、もう一息と、やがて着いた楽田の駅。
ふと見ると、柵の向こうに名も知らぬ紫の花。
なんだろ、二人で覗き込んでいると、「ああ、間に合ってよかった」という声。
ふりむくと「眼鏡の忘れ物!」。
さっきの喫茶店の奥さんだった。
「まあ、よくここだってわかったわね」
お菓子の城の袋持ってたから、きっと電車だと思って」
ありがとうを言ったときはもう自転車で駆けて行ってしまった。
もう一度お礼が言いたくて、駅の人に聞くと、地図を広げて見当をつけ、「住所がわかるかしら?」と尋ねると、今度は電話帳をめくって、住所と電話を教えてくださった。
その店の名は「コスパ」。
電車に乗って振り返ると、小さな駅舎に、春の陽が当たっていました。